遺言書を書いたことを家族に言わなくても大丈夫?
自筆証書遺言書保管制度の「死亡後の通知」を知っていますか
そんな場合でも、亡くなった後に遺言書の存在を知らせる方法があります。
遺言のご相談では、
「遺言書を作ったことを、今は子どもたちに話したくない」
というお気持ちが出てくることがあります。
これは決して珍しいことではありません。
誰に何を残すのか。
なぜ、そのようにしたいのか。
家族だからこそ、生前には話しにくいこともあります。
一方で、せっかく遺言書を書いても、亡くなったあとに誰にも見つけてもらえなければ、その想いを実現することは難しくなります。
そこで今回は、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」と死亡後の通知について、行政書士の立場から分かりやすく解説します。
01|自宅に置いた遺言書には「見つからない」という問題がある
自筆証書遺言には、自分で作成できるというメリットがあります。
しかし、自宅で保管する場合には、次のような問題が起こる可能性があります。
- 遺言書があることを誰も知らない
- どこにしまったのか分からない
- 相続手続が終わってから発見される
- 紛失や改ざんなどのリスクがある
法務省も、自筆証書遺言について、遺言者の死亡後に相続人等に発見されなかったり、改ざんされたりするおそれがあることを、自筆証書遺言書保管制度が創設された背景として挙げています。
そこで2020年7月から始まったのが、自筆証書遺言書保管制度です。
02|法務局に預ける「自筆証書遺言書保管制度」とは
この制度では、自分で作成した自筆証書遺言を、法務局の遺言書保管所に預けることができます。
保管申請ができるのは原則として、次のいずれかを管轄する遺言書保管所です。
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者が所有する不動産の所在地
保管申請は遺言者本人が行う必要があり、代理人による申請はできません。
さらに、この制度には意外と知られていない仕組みがあります。
それが、遺言者が亡くなった後の「通知」です。
03|亡くなった後に知らせてもらう「指定者通知」
遺言者が希望すれば、あらかじめ指定した方に、遺言書が法務局に保管されていることを知らせてもらう「指定者通知」という仕組みがあります。
現在は、3名まで通知対象者を指定できます。
遺言書保管官が戸籍担当部局との連携によって遺言者の死亡を確認した場合などに、指定された方へ遺言書が保管されていることが通知されます。
「生前には遺言のことを話したくない」
でも、
「亡くなった後には、この人には遺言書の存在を知ってほしい」
という準備ができます。
遺言書は、作成することだけでなく、「亡くなった後、どうやって必要な人に気づいてもらうのか」まで考える必要があります。
04|「死亡届を出せば全相続人に通知」ではない
ここは誤解されやすいところです。
指定者通知は、遺言者があらかじめ通知対象者を指定しておく仕組みです。
また、通知されるのは遺言書が保管されているという事実であり、通知を受けただけで遺言書の内容まで分かるわけではありません。
相続人・受遺者・遺言執行者等のうち請求資格のある方が、閲覧や遺言書情報証明書の交付請求などを行って内容を確認することになります。
したがって、「法務局に預けたから、亡くなった後のことは全部自動的に処理される」わけではありません。
05|法務局に預ければ内容まで安心?
ここも重要です。
法務局では、自筆証書遺言の方式について外形的な確認が行われますが、遺言内容そのものについて相談する制度ではありません。
たとえば、
- この書き方で希望する人に不動産を承継させられるのか
- 遺留分について検討する必要はないか
- 遺言執行者を指定した方がよいのか
- 相続人以外の人に財産を遺したい場合、どのような内容にするのか
といった問題は、遺言書を法務局に預けることとは別に検討する必要があります。
06|自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶ?
ここまで自筆証書遺言書保管制度をご紹介してきましたが、遺言には公正証書遺言という方法もあります。
自筆証書遺言書保管制度には、比較的少ない費用負担で利用でき、原本を法務局で保管してもらえるというメリットがあります。
一方、公正証書遺言は、公証人が遺言者本人の意思を確認したうえで公正証書として作成するもので、原本は公証役場に保管されます。
公正証書遺言についても家庭裁判所による検認は必要ありません。
もちろん、すべての方に公正証書遺言が必要というわけではありません。
ただ、八咫烏行政書士事務所では、次のようなケースでは公正証書遺言を積極的に検討することをおすすめしています。
- 相続人同士の関係に不安がある
- 法定相続分とは異なる財産の残し方をしたい
- 相続人以外の人に財産を遺したい
- 不動産など重要な財産がある
- 高齢などにより将来の判断能力が心配
- 遺言の有効性をめぐる争いをできるだけ避けたい
07|実務をしている立場から、少しだけ
自筆証書遺言書保管制度は、とても便利な制度だと思います。
費用を抑えながら遺言書の原本を安全に保管でき、検認も不要になる。十分に利用価値のある制度です。
ただ、実際に遺言作成のお手伝いをしている立場からすると、少しだけ思うことがあります。
自筆証書遺言を作成し、必要な準備をして、予約を取り、最終的には遺言者本人が法務局まで出向いて保管申請をする。
そこまで手間をかけるのであれば、
「内容についても専門家と確認したうえで、公正証書遺言にする方法も一度検討してみませんか」
というのが、実務に携わる私の感覚です。
もちろん、公正証書遺言には公証人手数料がかかりますし、証人の関与も必要です。
そのため、単純に「公正証書遺言の方が優れている」という話ではありません。
自筆証書遺言書保管制度には、費用を抑えながら安全に保管できるという明確なメリットがあります。
それでも、家族関係や財産の内容によっては、「保管してもらう安心」だけではなく、「内容についても確認を重ねて作る安心」まで求めるという選択肢があってよいと思います。
08|大切なのは「書いた後」まで考えること
私は、遺言書は「書いたら終わり」ではないと思っています。
誰に何を残すのか。
なぜ、その人に残したいのか。
亡くなった後、誰が遺言書の存在に気づくのか。
誰が実際の手続をするのか。
そして、その内容で本当に自分の想いを実現できるのか。
そこまで考えて、初めて一つの遺言になるのではないでしょうか。
自筆証書遺言書保管制度の詳細・最新情報については、法務省の案内をご確認ください。
※本記事は、遺言制度について一般的な情報を提供することを目的としたものです。個別の事案については、家族関係、財産内容、遺言内容等によって検討すべき事項が異なります。

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